はじめに:魅力的な利回りの裏側に何がある?
近年、月次分配型ETFの人気が高まる中、REX Shares社の「FEPI」「AIPI」「CEPI」は、いずれも配当利回り25〜40%(2025年7月時点)という驚異的な高利回りで注目を集めています。
しかし、これらのETFはその「高利回り」の構造が非常に特殊です。実際に得られる収益なのか? 元本を切り崩しているだけではないのか?――投資判断の前に、構造を正確に理解しておくことが大切です。
銘柄概要
ティッカー | 名称 | 投資対象 | 運用戦略 | 利回り (2025年7月) | 分配頻度 |
---|---|---|---|---|---|
FEPI | REX FANG & Innovation Equity Premium Income ETF | GAFAM+ハイグロ株 | カバード・コール | 約25% | 月次 |
AIPI | REX AI Equity Premium Income ETF | AI関連株(NVDA等) | カバード・コール | 約35% | 月次 |
CEPI | REX Crypto Equity Premium Income ETF | 仮想通貨関連株(COIN等) | カバード・コール | 約40% | 月次 |
すべてのETFが、対象セクター株+カバード・コール戦略で構成され、インカム(現金分配)創出を目的としています。
なぜ高配当? ─ すべてが「Return of Capital」
REX公式サイトでは明確に次のように記載されています:
“Current distributions consist of 100% estimated return of capital (ROC).”
(現在の分配金はすべて「元本払戻し」で構成されている)
つまり、配当として見えるお金のすべては、投資家が出した元本の払い戻しに過ぎないということです。
ROCとは?
ROC(Return of Capital)とは、企業やETFが投資元本を分配している状態であり、実際の利益(配当やプレミアム収益)に基づくものではありません。
- 一見「高配当」に見えるが…
- 実態は「投資家自身のお金を戻しているだけ」
- したがって、NAV(純資産価値)は徐々に下がっていく傾向にある
カバードコール戦略が利益を出していれば、本来は…
- カバード・コール戦略による収入(プレミアム収入)があれば、
- それは通常「配当所得」や「キャピタルゲイン」としてETFの収益になり、
- 投資家には 「Ordinary Dividend」や「Capital Gain Distribution」 として分配されます。
つまり、分配金の一部または全部が「収益(=課税対象)」であるのが普通です。
それなのに「100% ROC」なのはなぜか?
いくつかの理由が推測されます。
- プレミアム収入(オプション収益)が実際には限定的
- ETFの組入銘柄のボラティリティが低い、またはカバードコールの設計上、プレミアム収入が乏しい
- または、収益は出ているが、税務上の処理で「実現利益ではない」とされる(≒含み益)
- よって、分配金の源泉が実際の収益でない=ROCとして扱われる
あるいは、「分配額を高く見せるために、最初から元本の一部を使っている」可能性もあります。
実際にREX社の発表ではプレミアム収入(30 Day SEC Yield)はマイナスです。

出典:REX Shares
JEPQとの違い:同じ“高配当”でも本質は別
比較項目 | JEPQ | FEPI/AIPI/CEPI |
---|---|---|
分配の主な源泉 | 実際のプレミアム収入+株式配当 | 元本(Return of Capital) |
ROCの発生 | 一部に含まれる可能性 | 100% ROCと明示 |
NAVの傾向 | 比較的安定(横ばい〜微増) | 長期的に下落傾向 |
長期投資適性 | ◎(再投資向き) | ✕(複利効果が得られない) |
用途 | インカム+資産維持 | インカム一時補完用 |
JEPQはプレミアム収入や株式配当を原資に分配しており、長期保有でもNAVが一定程度保たれています。一方、REX社のETFは運用益ではなく元本で分配を賄っており、NAVは時間とともに削られていく構造です。
JEPQとFEPI/AIPI/CEPIの設定来の基準価格(≒NAV)の推移は以下の通りです。いずれも設定から期間が浅いため分かりにくいですが、FEPI/AIPI/CEPIは下落傾向にあることが分かります。

出典:Google Finance
長期投資に向くか? ─ 明確に「NO」
ROC中心のETFに長期で投資するということは、以下のような構図になります:
- 毎月高配当が入る(ように見える)
- しかし元本は削れていく(NAVは下がる)
- 複利再投資しても効果が薄い
- 最終的には元本の目減りでトータルリターンはマイナスに
つまり、「再投資による資産増加(複利効果)」を狙う人には不向きです。
このETFはどんな人向け?
REX社ETF(FEPI / AIPI / CEPI)は、以下のような用途に限定して活用するのが現実的です:
- 配当生活中で「今すぐの現金収入が必要」な人
- 短期・中期的に「NAVの低下を許容し、分配を優先」する人
- 税制上、ROCの繰延効果を活用できる国に住む投資家(例:米国在住者)
投資にあたって注意したい点
- 高利回りに惑わされず、「NAVが削られていないか?」を常にチェック
- 分配原資が「利益」か「ROC」かを確認(公式サイトなど)
- 複利や資産成長を期待せず、消費型インカムとして割り切る
まとめ:見かけの高配当に惑わされず「中身」で判断
REX社のFEPI/AIPI/CEPIは、魅力的な月次高配当を提供するETFである一方、その裏側では元本を削って分配を実現しているという点が極めて重要です。
長期保有で複利再投資を狙う投資家には不向きであり、「期間限定でインカム補助を得たい」「短期的にキャッシュフローを重視したい」という場合に限定して、サテライト運用の一環として活用するのが現実的です。
🧭 おだやか配当生活の鉄則は、“利回りの高さより、その中身”を見抜くこと。
資産を守り、育て、受け取る――そのための正しい目線でETFを選択することが大切だと考えています。
※本記事は特定の銘柄の購入を推奨するものではなく、筆者個人の経験と考えに基づいた情報提供を目的としています。投資に関する最終的な判断は、ご自身の状況や目的に合わせて慎重に行っていただくようお願いいたします。
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